相手の防具ごしに威力を伝える“鎧徹し(よろいどおし)”という技法が古流の武術にはあるそうですね。硬い鎧を破壊せずに、威力だけを内部に貫通させるというもの。刀や矢の攻撃から甲冑で身を守っていた時代の攻撃技法。
「石鑿の原理」とは、拳や剣が相手にあたるという瞬間に、全身を使って自らの動きをとめることで、強力な威力だけが飛び出すように相手に伝わる、という身体の使い方で、竹刀で打ち合うときにこれを行うと、相手は身体に染み込んでくるような圧倒的な衝撃を受けて竹刀を沈められる。
身体から革命を起こす
以前、作家の津本陽さんが話されていましたが、甲冑を着ての戦いというのは超近距離だったそうです。鍔迫り合いというか、腕を曲げた状態で刀の柄を相手に殴りつけられるくらいの距離とか。つまり、遠めから踏み込みながら刀でバッサリとはいかなかったようです。タックルしていってもみくちゃの乱戦が基本という話です。
なので、“鎧徹し”もまた超近距離を想定した技なのだと考えられる。それは、密着して触れた状態から攻撃する感覚…上記引用の「石鑿の原理」なのだと思われる。石のみを木材にあてがってから、トンカチでノミを叩いて威力だけを通すような感じでしょうか?
ノミ自体は動かないけれど、威力だけが抜ける。具体的には、肘から先を動かさずに接点を確保(ノミの部分)、胴体の重心移動(トンカチの部分)によって固定した腕に瞬間的に寄りかかる感じ?打撃のことを“当身(あてみ)”とも言いますが、体当たりを肩ではなく、手足で行う感覚がポイントなのかもしれないですね。